八十歳を越えても……

知り合いのRさん(女性:30代)が偏頭痛と疲労で来院しました。

何か嫌な事があったとみえて、上半身から捻れてしまっています。

 

子犬を求めて、ブリーダーと呼ばれるお宅を、初めて訪問したそうです。

優しそうな80歳代の老夫婦が、個人経営で大切に犬を繁殖させていました。

ご夫婦の年齢にまず驚いたそうですが、血統の良い犬を、精魂込めて育てている姿に、この夫婦から子犬を購入したいと思いました。

 

子犬を見てから、ご主人の趣味だという、骨董品の数々も見せてもらいました。「飽きたら、売ってしまうんだよ……」という言葉に、古いベネチアングラスが気に入り、手放す時には連絡を下さいと伝えました。

ご夫婦には本業があり、趣味でブリーダーをしているのだと、理解しました。

 

子犬の値段交渉に入ると「東京では幾らで……大阪では幾らで売れた……」などと、彼女の予算を大きく超える金額を提示されました。一般的な相場からも高価だったため、いったん家に戻り、考える事にしました。

 

帰宅すると、ご主人から「○万円値引きするからどうか?」という電話があり、交渉しても値が下がらず、受話器を置きました。

次の日「幾らなら出せる?何曜日には子犬は業者に引き渡してしまうんだよ…」などと、気持ちを追い詰められる様な電話を受け、お金に対するガメツさと、巧みな話術に、第一印象とは違うものを感じ始めました。

 

結局、交渉が物別れとなり、泣く泣く子犬を諦め、落ち込んでいるところへ、更に電話が入り「ベネチアングラスのことだけど、方々から問い合わせがあってね、貴女なら幾ら出せる?」……。

 

人間が抱く、金銭への欲望や執着心・物欲などは、年齢ではないことが分かります。年齢を重ねても、財産が有ってもなお、金銭や物質を求め続けるエネルギーは、無意識の中で「いつまでも生き続けたい…」と願う気持ちと、同類のものかもしれません。

 

Rさんにとって子犬は、かわいいペットですが、老夫婦が大切に育て、扱っていたものは、子犬ではなく「お金」そのものだったのです。

 

彼女は第一印象で、優しいと思えた老夫婦が、お金にいやらしい人達だったと、肩を落として呟きました。


 

※このブログはRさんの承諾を得て、掲載しております。

                       (写真:そばの花畑)